懐風堂

これは、僕の空想である。

今年のライトノベル初読みで、本当に面白い作品を引き当てる。

とあるツイッターのフォロワーさんがハマっていると呟いているのを見た。どうやらその作品は主人公の少年が女装をして男子禁制の後宮に潜り込むというものらしい。これはつまり俺得というヤツである。読まないわけにはいかないと早速とらのあなへ出かけて購入した。以下、ネタバレを含む。

 

石川博品『後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール』集英社スーパーダッシュ文庫、2013年。

 

初めて手にする作家さんの作品である。こういう場合はたいていギャンブルのようなものだが、今回は大勝利だった。素晴らしい作品と巡り逢えた瞬間の喜びは読書人の醍醐味であろう。

 

タイトルの通り、野球物である。後宮と云うのだから、登場人物の中心は女性ばかりである。なんて突飛な設定だろうか。イスラム王朝を思わせる舞台で、皇帝に仕える女性たちが、本気で野球の試合をしているのだ。なにをどうすればこんな世界観が出来上がるのか(笑)。しかし、面白いんだから文句はない。

 

主人公は女装をして後宮へと潜り込む。その目的は皇帝の暗殺である。しかし、少女たちと野球をすることによって、彼の人生に変化が生じていく。物語のあらすじとしてはそんな感じだが、この作品のポイントはそこではないように思う。

 

イスラム王朝の後宮が舞台で、登場人物には獣人がいたり吸血鬼がいたり宇宙人(?)のような不思議っ娘までいる。そして、野球である。もうなんでもアリな世界観だが、全く違和感なくしっかりまとまっている。ファンタジーという感じがしないのがすごいところ。やはり現実世界の歴史をもとに設定が作られているからだろうか。それなのに登場人物は特殊なキャラが多い。それでも違和感がなく世界観に溶け込んでいる。

 

野球の描写も素晴らしい。おそらくこの作品は1巻完結だと思われるので、1試合を3回までにしてテンポよく描いている。変な能力を使うヤツまで出てきたりするが、試合内容は至って本格的だ。野球物としても充分に楽しめる。

 

そして後宮という少女たちの秘密の花園とは思えない(いや、男子禁制だからこその)ドロドロした感じがたまらない。野球の試合も半分は大乱闘だったり。野球と喧嘩は後宮の華。本気で殴り合っている少女たちって私は結構好きである(笑)。

 

惜しむらくは、続編にあまり期待できないというところだろう。作者のこれまでの傾向から見ても、作品の終わらせ方から見ても、設定から考えても、1巻で完結であるように思われる。とても魅力的な世界観で物語はもっともっと広げることができそうな感じではある。ただ、続き物ならばここまで1冊に詰め込まないような気もする。まとまりすぎている辺り、やはりここで終わりなのだろう。続きが出るなら、万々歳だけれど。

 

私は、この作品は文庫本1冊を使った「短篇」であると思って読むとちょうど良いのではないかと思う。そうすれば文量的な物足りなさとも折り合いがつけられるだろう。

 

最後に私の性癖的な話。主人公・香燻がもう最高だ。彼は女装こそしているが、あくまでも男として少年として描かれている。14才という年頃の不安定な感じも良い。やはり少年はこうでなくては。そしてなにより、首輪をつけているという設定。これは女装をするにあたって男性的な喉仏を隠すためということだけれど、とても良い。やはり、かわいい少年には首輪をつけたくなりますよね (笑)。